光文社古典新訳文庫_ダンマパダ ブッダ 真理の言葉

ダンマパダ ブッダ 真理の言葉 (光文社古典新訳文庫) [ 今枝由郎 ]価格:814円
(2024/3/26 14:17時点)

仏教の最も古い経典のうちの一つと言われるダンマパダ、その現代語訳版を読んだ。(知識として身につけると言うよりは頭に染み込ませる類の本だと思うので一度通読しただけで視聴したと言えるかは微妙なところだが。)

私自身が初期仏教に惹かれている身なのだが、それを差し引いても素晴らしいテクストだと思う。非常に読みやすく、かつ適度に詩的で読んでいて心地よい。ダンマパダは漢訳の経典としても存在しており、法句経(ほっくぎょう)と言うとのこと。読み比べるのも面白いかも知れない。

日本において一般的に仏教は宗教と捉えられていると思う。だからこそ、とても読みやすくブッダ本人の言葉に近い(とされている)メッセージを伝えているこの本を多くの人に読んでみて欲しい。

訳者あとがきにオックスフォード仏教研究センターの創始者の言葉が引用されている。

ブッダはあらゆる時代を通じてもっとも輝かしく、かつ独創的な思想家の一人である

リチャード・ゴンブリッチ教授

ブッダはまさしく思想家である。宗教家ではないだろう。(ただし、宗教の定義によるのかも知れない。)不勉強につき当時の僧等の組織や布教状況についてはイメージがついていないので断言は出来ないのだが、ダンマパダで描かれている思想は現代にも通じるものであることは確かだ。

仏教と言えば様々な仏教用語があるが、ダンマパダのメッセージはシンプルだ。「執着を捨てて善く生きよ」、シンプルである。

善く生きると言うと、ギリシャの哲人のソクラテスが思い浮かぶだろう。ソクラテスは無知の知という言葉や問答法という思考法が伝えられていることから分かるように、世界の真の姿を知るという意味での真理を追求しようとした人物と言えると思う。

その点は世界のあり様よりも自身の内面を重視したブッダと異なるのだが、善く生きるという点が共通しているのが面白く興味深い。その一致に人は安っぽく言うとロマンを感じるのではないだろうか。

世界は自分の心のあり様によって違って見える、そんな視点が紀元前5〜6世紀に生まれていたというのも何とも味わい深いものがある。

さて、素晴らしい原始仏教のエッセンスを味わえるこの本だが、強烈な魅力を持つだけに果たして若い人にお勧めだろうかというと断言できない。若い頃の読書というのはある意味丸呑みだと思うからだ。

それに対してある程度歳を重ねていれば、「そういう考え方もあるよね」と自分の外の世界との対話として本を楽しむことが出来る。

例えば、執着を捨てる、愛着を捨てるというのが心穏やかに生きることに繋がるのは確かであろうと思うのだが、果たしてそれで良いのか?愛着を慈しみながら執着を第三者的に認識していく方法もあるのではないか?

ダンマパダの主張はあまりにも一貫している。古い経典とは言えダンマパダの成立はブッダの時代に少なくとも数世紀は遅れるようだから想像しかできないが、ブッダは恵まれた生活から垣間見た生老病死にそこまで強い衝撃を受けたのか、とある種感動してしまう。潔癖さすら感じるので、ブッダの説いたエッセンスは残しながらもやはりある程度内容は変容しているのではないかと想像してしまうのだ。

自分がいつからこんな読み方をするようになったのか分からないが、少なくとも高校生や大学生の時分に読んだのであれば感想が違っていただろうと思われる。と言っても若い人が読めばのめり込む分、吸収や理解の深さが異なるのだろうから、それも良いのかも知れない。宗教というのは、ある種その情熱が共にあるものというイメージすらある。

そんなことをツラツラと考えながら読んだ。文章として読みやすいばかりでなく各短文が一つのメッセージとしても成立しているので一日一文を日課とするのも良いかも知れない。読み続けていけば、また違った知見が得られるだろう。

ダンマパダの他に仏教の最も古い経典としてはスッタニパータというものがあるらしい。そして、ありがたいことに同じく光文社古典新訳文庫からも出版されているので次は法句経の解説やこちらを読んでみたい。

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